はじめに
高齢化が進む現代において、相続問題が多発しています。
遺産分割や遺留分のことで家族同士が争い、いわゆる“争族”となってしまうケースも珍しくありません。
実際に相続問題が発生した時に備えて、まず「よくあるお悩み」を確認したうえで、
次の3つの項目「遺産相続における注意点」、「相続問題を弁護士に依頼するメリット」、「遺言について」について確認しましょう。
相続問題でよくあるお悩みには次のようなものがあります。
➢ 亡くなった父に遺産や借金があるか調べたい
➢ 遺産分割の話し合いをしたが、親族関係がよくないので難航している
➢ 遺産分割手続きをどのように進めてよいか分からない
➢ 遺産分けの協議をしなくてはならないが、親族関係が悪いので協議ができない。自身ではしたくない。
➢ 他人から「生前故人の世話をしたから遺産を分けてほしい」と要求された
➢ あまり交流のない親戚から「あなたが相続人になっている」との連絡がきた
➢ 数年前に相続手続をしたが、不当だったからやり直せといわれた
➢ 遺言書を見せられたが父は長年認知症だったので疑念がある
➢ 遺言による私の相続分が明らかに少ない
➢ 自分の遺言を残したいが自筆や公正証書等どれを選ぶべきか など
当事務所でも、こういったお悩みでお困りのご相談者様が多くいらっしゃいます。
遺産相続における注意点
実際に相続が発生した場合に気を付けたいポイントは以下の4点です。
1、相続人の確定
2、遺産の確定
3、協議・交渉の段取り
4、調停・審判となった際の着地点
1、相続人の特定
まず、「誰が相続人になるのか」を正確に調査する必要があります。
親族関係が複雑な場合には、会ったこともない遠縁の親族が相続人となることもあるでしょう。
そういう場合には、古い戸籍を取得・解読した上で、相続人を正確に特定しますが、個人が行うにはハードルが高いものとなっています。
その点、弁護士に依頼をすれば、職権により必要な範囲で戸籍を取得することができますので、相続関係の正確かつスムーズな調査が可能となります。
2、遺産の特定
相続人の特定と同様に、遺産の正確な調査も重要です。
基本的には「遺産」とは、「被相続人が、死去したその当日時点で有していた財産」となります。
ただし、被相続人の生前であっても、他の親族が使い込んでいた、など不当な支出が疑われる場合には、被相続人の口座履歴を調査することもあります。
3、協議・交渉の段取り
相続人と遺産の特定ができたら、相続人同士で話し合いです。その際には、あらかじめ対応を考えておきましょう。
例えば、他の相続人が「感情的に対立する可能性がある人」なのか、「争いにはならないが手続を面倒臭がる人」なのかによって、対応も変えなければいけません。
また交渉前には、あなたの「希望条件」や「最低限譲れない条件」も考えておきましょう。
4、調停・審判の着地点
遺産分割が話し合いで合意できなければ、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
そして調停でも合意に至らない場合は、「審判」という形で裁判所が結論を下します。
「審判」が確定すれば、その内容にしたがって遺産の取得ができます。
なお、審判では、法律に従った機械的な判断がされますので、感情的な対立が激しい場合や、相手が強硬な場合は、審判にしたほうがよい場合もあります。
弁護士であれば、「もし審判となった際に、裁判所はどのような判断を下すか」を予想しつつ、依頼者の希望する解決に向けて適切な交渉・調停の進行が可能です。
相続問題を弁護士に依頼するメリット
それでは相続問題が発生した際に、弁護士に依頼するとどのようなメリットがあるのか、次の4つの点を確認していきましょう。
1、正確な知識
2、交渉のプロ
3、審判の見立て
4、成立後の実際の各種手続対応
1、正確な知識
相続問題は身近なものとはいえ、内容に関しては複雑です。上述の「相続人・遺産の特定」はもちろん、「法定相続分」、「遺留分」、「遺言の有効要件」「寄与分」など、正確な法的知識がないと判断できない部分ばかりです。例えば「相続人の調査」では、戦前や明治時代に編成された戸籍を取得・解読しながら辿り、合計で20通近い戸籍が必要となるときもあり、知識・経験がないと非常に困難です。
実際に、曖昧な知識で手続きした結果、数年後に問題が起きてやり直しや紛争となり、余計に複雑化することも多々ありますので、弁護士に依頼し正確な処理をしてもらいましょう。
2、交渉のプロ
相続の話合いでは、トラブルに発展することは珍しくありません。身内であるからこそ感情的対立が深くなったり、過去の恨みや不満のぶつけ合いになることがあります。
そこで第三者かつ交渉のプロである弁護士に依頼すれば、当事者間の感情にも十分配慮をしながら、適正・妥当な解決に向けて冷静に話合いを進めることが可能です。
3、審判の見立て
「家庭裁判所の審判」と言われても、多くの方はその内容やどのような結論になるかなど、よく分からないと思います。
実績と経験を兼ね備えた弁護士であれば、その審判の結論を推察し、それを前提に交渉を進めていきます。遺産分割は交渉や調停でまとまることが多いのですが、「もし交渉が決裂した場合にはどうなるか」これを見据えた上での話し合いができるのは、リスク回避のために重要です。
4、成立後の実際の各種手続対応
協議や調停で合意が成立しても、その後の「法務局に対する不動産登記の変更手続」や、「銀行に対する預金の受取」など、相続の手続きは大変煩雑であり、膨大な必要資料も必要です。例えば、遺産が入っている銀行口座が複数あれば、銀行ごとにそれぞれ手続が必要となります。
この点についても、経験のある弁護士が対応すれば、滞りなく処理できます。
遺言について
それでは、相続問題には不可欠である「遺言」についても、下記の4点を確認しておきましょう。
(1)遺言を作った方が良いか
(2)公正証書遺言作成のすすめ
(3)遺留分侵害額請求について
(4)遺言無効確認について
(1)遺言を作った方が良いか
結論として、遺産が少しでもあれば、遺言は作成することをおすすめします。
これは、たとえ相続人が対立する危険がない場合であってもです。
そもそも何故遺言が必要なのでしょうか?
理由としては「その遺言内容に従った相続手続きであれば、他の相続人の協議なしで可能になるから」です。例えば、遺言がない場合、相続人「全員」が合意し、署名と実印を捺印した「遺産分割協議書」を作成、さらには全員分の印鑑証明書を揃える必要があります。
対立がある場合には協議は中々まとまりませんし、たとえ対立はなくとも、相続人同士で連絡が取れなかったり手続きしてくれないことや、相続人が多すぎて相続人の署名捺印を集めるのに時間がかかった結果、その間に重要書類の紛失したという様なリスクが伴います。
こういったリスクを軽減するために遺言があると良いのです。
しかしならが、ここでいう遺言は、法律で定められたすべての項目を満たしている“有効な遺言”に限ります。有効要件の内容についてきちんと専門家に依頼した上で、有効な遺言を作成しましょう。
(2)公正証書遺言作成のすすめ
遺言の重要性は上述のとおりですが、遺言を作成したい方におすすめなのが「公正証書遺言」です。
多くの方がイメージされる「遺言」とは、被相続人が手書きで残した「自筆証書遺言」かと思いますが、「公正証書遺言」は公証人という公的な第三者を交えて作成される遺言です。
公正証書遺言のメリットとしては以下の3つの点があります。一つずつ確認をしていきましょう。
① 相続手続がよりスムーズになる
② 有効無効の争いが起きにくい
③ 紛失等の危険がない
① 相続手続がよりスムーズになる
「公正証書遺言」であれば「自筆証書遺言」よりも手続きがスムーズになります。
なぜなら、手書きの「自筆証書遺言」は、そのままでは手続に使えないからです。
たとえ法的に必要な要件をきちんと満たし有効な遺言であっても、基本的に家庭裁判所へ「検認(けんにん)手続」を申し立て、検認の証明書を取得しない限り、銀行や法務局は手続きをしてくれません。
しかしこの検認手続も煩雑であり、証明書が発行されるまで期間もかかります。
この点は、「公正証書遺言」には必要のない手続きです。
② 有効無効の争いが起きにくい
「自筆証書遺言」の場合、たとえば遺言者が高齢者であると「この時おじいちゃんは認知症だったはずだ!」と争いになることもあります。
この点も公正証書遺言だと、法務局所属の「公証人」が、直接遺言者と対面し作成をしますので、まずそのような争いにはなりません。
③ 紛失等の危険がない
「公正証書遺言」は公証役場で保管されているので、個人で管理する「自筆証書遺言」と異なり、紛失等の危険がありません。
以上が「公正証書遺言」をおすすめする理由です。
なお、「自筆証書遺言」についても、法務局で「保管制度」が新たに創設されたため、この制度を利用すれば、上述の検認は不要、紛失の心配もありません。
しかしながら、この制度は「自筆証書遺言」の有効性は保証してくれませんし、あえてこの制度の申請手続に労力を費やすのであれば、公正証書遺言の作成をしたほうが良いでしょう。
(3)遺留分侵害額請求について
遺言によって、自身の相続分が民法で定められた「遺留分」よりも下回っていた場合には、「遺留分侵害額請求」ができます。この請求では、「侵害された範囲内で、他の相続人や遺贈を受けた相手に対して請求すること」が可能です。
ただし、この「遺留分侵害額請求」には時効があるので注意が必要です。「相続開始(被相続人の死去)及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ってから1年」という時効期限があります。また、仮に相続や遺留分を侵害している事実を知らなかったとしても「相続開始から10年」経てば、時効消滅してしまいます。
遺留分の有無や正確な金額計算、誰にどう請求すべきか等適正な判断をするためには専門家に依頼するのが良いでしょう。
(4)遺言無効確認
被相続人が重度の認知症であった等の理由で、遺言そのものが無効な書面とされることもあります。
無効が疑われる場合には、被相続人の診断書や介護施設の記録、介護認定資料等を取り寄せ、遺言作成時における被相続人の状態を確認します。こういった手続にも専門的な知識が必要となります。
なお、結果として遺言が無効となれば、相続人同士で再度、遺産分割協議をすることになります。
まとめ
相続問題は身近に起こる問題でありつつ、専門家でないとわからないような法律が複雑に関係してきます。ただでさえ相続人である親族間でのもめ事に発展しやすい上に、相続問題の発生から解決に至ったその後まで、専門知識が必要な処理がたくさんあります。
あなたの正当な権利を実現するために、相続でお悩みの方はぜひ一度、専門家である弁護士にご相談下さい。